最近劇場では感染症予防対策として最前列の席は舞台から2m以上の距離がとられています。
小劇場だと最前の椅子席と舞台の間に座布団が置かれた桟敷席と言う席があります。
実は私はこの「桟敷席」という言葉をずっと勘違いしていました。
おそらく小劇場に関わっているほとんどの人がそうなのではないでしょうか。
桟敷席と言えば地べたに座布団を敷いただけの窮屈でお尻が痛くなる席。
そんなイメージをずっと持っていました。
ところが最近日本の劇場の歴史を調べていると、そこで出てくる「桟敷」の意味合いがどうも違うんです。
平安時代辺りから「桟敷」という言葉が出てくるのですがそこではこのように書かれています。
「貴族の為に設営された桟敷席は・・・」とか
「土間席に比べ値段の高い桟敷席は・・・」とか
「貴族?」
「高い?」
と私の中で疑問符が浮かび上がったわけです。
それで改めて辞書で調べるとこのように書かれていました。
これを読むと私が小劇場で抱いていた桟敷席と全く違います。
むしろ広くて見晴らしの良い上等の席であったようです。
菱川師宣(ひしかわもろのぶ)の浮世画がとても綺麗でわかりやすいのですが、
この絵の左側に描かれているのが桟敷席です。
少し高みに設けられて屏風などで区切られていてとても居心地のよさそうな席です。
(ていうか芝居観てないですね、、、)
紙本金地著色歌舞伎図屏風 菱川師宣 江戸時代・17世紀 東京国立博物館蔵
http://www.emuseum.jp/detail/100311 より
拡大図
歌舞伎小屋でもそうです。
両脇のバルコニーにある席の事を桟敷席と言い、
一階の土間席に比べ高級な席という事になっています。
『東都歌舞伎大芝居の図』(葛飾北斎 画)
しかし、なぜ小劇場では桟敷=最前列の一番安い席なのでしょうか?
これは私の推測でしかないのですが、
もともと芝居というものはその名の通り芝の上に居座って見ていたもので
薄い敷物くらいは敷いていたかもしれませんがほぼ地べたに座って芝居を見ていたと思います。
先の菱川師宣の絵を見ても土間のお客さんは地べたに座って居るのがわかります。
ところが、上流階級の人たちは当然そのような場所では観劇しないわけです。
見やすくて居心地の良い席を求めるわけです。
そうして生まれたのが少し高みに設けられ敷物を敷いた桟敷席です。
近代になると土間席は完全に撤去されてそこが椅子席になるわけです。
そうなると椅子席と座布団が敷いてある桟敷席に二分されるわけです。
椅子席と区別する意味で座布団が敷いてある席=桟敷席となったのではないかと思います。
もっというと桟敷=座布団くらいのイメージなっていったのかもしれません。
それがいつしか小劇場の最前列に置かれている座布団席=桟敷席と呼ばれるようになったのではないかと思います。
日本古来の桟敷席を見て私は西洋のボックス席を思い出しました。
2階3階のバルコニーに設けられた上流階級の為の席です。
この席は舞台上にまで食い込んでいて、決して観やすい席ではなかったと思います。
見る事よりも自分の権力を見せつける方が目的だったのかもしれません。
歌舞伎小屋の桟敷席も非常に似ていると思いました。
まあ権力云々はさておきある程度プライベートが確保された居心地の良いで席であったのは間違えありません。
じつはこれが今のコロナの時代にあっているのかもしれません。
フィラデルフィアのウィルマシアターという劇場がロンドングローブ座をもしたソーシャルディスタンスの劇場を提唱しています。
グローブ座のボックス席のみの劇場と考えればわかりやすいかもしれません。
もちろんボックス席のみだと採算を取るのは難しいでしょう。
その辺りは動画配信と平行して行うのかもしれません。
しかしながら、こんな劇場を見ながらこのコロナ時代を境に小劇場のかぶりつきの桟敷席は消滅してしまうのかもしれないと寂しさを感じてしまいました。
そして、小劇場からは桟敷席という言葉すらなくなってしまうのかもしれません。